定時に帰れた華の金曜日。家にむかって歩いていると、突如背後から左腕に衝撃が!
体勢を崩しかけ、なんとなく下ろしていた僕の腕は地面と水平まで跳ね上がる。
何事かと思った時、車道へ転がっていく老婆と自転車。
…そう、チャリに乗った婆さんが僕にぶつかって座礁したのです。
ふつう道端でおばあさんが転んでいたなら、何かしらお手伝いをするのが人情というものです。
でも、このおばあさんは、かなりの速度で僕にぶつかってきた。どう考えても危険運転の自業自得。
僕の中で、天使と悪魔がせめぎ合う!
天使『理由はどうあれ、困っている人には手を差し延べなくては!』
悪魔『関わると、きっと衝突も全部僕のせいにされてガタガタ騒がれるよ』
天使『老婆が急いでいたのも何か理由があったに違いありません!』
悪魔『どんな理由があろうと、衝突で成人男性が体勢を崩すほどの危険運転してたんだよ』
天使『転倒の衝撃で車道にまではみ出しているのですよ!早く助けなければ!』
悪魔『それだけすごい速度で自転車に乗っていたって事だよ』
天使『結局自分はほぼ無傷だったのですから、広い心を持つべきです!』
悪魔『ぶつかったのが僕じゃなくて子供や女の人だったら、無傷では済まなかっただろうね ていうか左腕痛いし』
天使『右の頬をぶたれたら左の頬も出しなさい!左腕に突進されたなら右腕にも突進してもらいなさい!』
悪魔『ああもう、好きにすればいいよ でも警察沙汰になったらきっと老婆は自分に都合のいいように供述するだろうね そして警察は社会的に立場の弱い方につくだろうね』
そのぐらいまで考えて、とりあえず無視して帰りました。
自転車の危険運転というのは、本当に身近で、本当に危険なもの。
高校の自転車保険の説明で、『自転車で衝突して相手を半身不随にしてしまった先輩がいる』という話を聞かされました。
家の近所で、大学生が盗んだ自転車で脚立に衝突、上で作業をしていた管理人さんが落下して亡くなるという事故もありました。
今回の件に関しても、むこうが勝手に突っ込んで来たわけで、被害者は僕。
もし突っ込んで来たのが老婆じゃなくて若者だったら、きっと僕は怒号のひとつもあげていた。
でも、おばあちゃんだからオマケして、痛みも驚きも全部、無かった事に『してあげた』。そう、僕と貴女は『ぶつからなかった』。
だから、そこの車道から起き上がる事ぐらいは自分でして下さい。僕は何も悪くないのです。
…そう自分に言い聞かせないと、なぜだか罪の意識が消えないのです。
自転車の危険運転というのは、本当に身近で、本当に危険なもの。
でも、それがおばあちゃんで、僕に衝突したとはいえ目の前で転ばれたとなると…ああ、やっぱり手を差し延べてあげるべきだったのでしょうか…!